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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1013号 判決 1981年2月27日

控訴人(附帯被控訴人、第一審本訴被告、同反訴原告、以下、控訴人という。) 竹中茂

控訴人(附帯被控訴人、第一審本訴被告、以下、控訴人という。) 光陽興産株式会社

右代表者代表取締役 竹中茂

被控訴人(附帯控訴人、第一審本訴原告、同反訴被告、以下、被控訴人という。) 奥田敏夫

右訴訟代理人弁護士 久保義雄

主文

一  附帯控訴に基き原判決主文第一項及び第三項中控訴人らに対する本訴請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人らは各自被控訴人に対し金七〇六九万八二〇〇円及び内金六八八四万八二〇〇円に対する昭和五〇年一二月三〇日から、内金一八五万円に対する昭和五五年九月九日から各完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人のその余の本訴請求を棄却する。

二  本件各控訴をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも本訴・反訴を通じこれを五分し、その二を被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とする。

四  この判決は第一項1に限り仮に執行することができる。

事実

一  控訴人竹中茂(以下、竹中という。)は「1 原判決中控訴人竹中に関する部分を次のとおり変更する。2 被控訴人は控訴人竹中に対し原判決別紙約束手形目録(1)ないし(31)、(48)ないし(60)、(74)記載の約束手形四五通を引渡せ。3 被控訴人の本訴請求を棄却する。4 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴につき「1 本件附帯控訴を棄却する。2 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決をそれぞれ求め、控訴人光陽興産株式会社(以下、光陽興産という。)は「1 原判決中控訴人光陽興産の敗訴部分を取消す。2 被控訴人の本訴請求を棄却する。3 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴につき「1 本件附帯控訴を棄却する。2 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。

被控訴代理人は「1 本件各控訴をいずれも棄却する。2 控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を、附帯控訴として「1 原判決を次のとおり変更する。2 控訴人らは各自被控訴人に対し一億二一六六万一四〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一二月三〇日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。3 控訴人竹中の反訴請求を棄却する。4 訴訟費用は第一・二審とも本訴・反訴を通じ控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行宣言をそれぞれ求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に訂正・附加するほか、原判決事実摘示中控訴人ら関係部分のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

原判決三枚目裏八行目の「社員」を「従業員」と、六枚目表一、二行目の「番地、同番地三ないし五の土地」を「番、同番三ないし五の土地(以下、本件土地という。)」とそれぞれ改める。

(控訴人らの主張の補正)

1  原判決五枚目裏一二行目の「である。」を「であるし、本件(75)、(76)の手形(以下、「本件」を省略して、(75)、(76)の手形ともいい、他の手形についてもこの例による。)二通の受取人の補充は原判決言渡後になされたものであるから、右手形二通も無効のものである(控訴人らは、原審において、(75)、(76)の手形が完成した手形であることを認める旨述べたが、当審において右のとおり主張する。)。」と改める。

2  同六枚目裏一二行目の「請求原因」の次に「及び被控訴人の再抗弁に対する反論」を加える。

3  同七枚目裏六行目の次に「被控訴人は、(2)、(3)、(18)、(25)、(27)の手形五通については書替後の新手形の請求をしていない旨主張するが、(2)、(18)、(25)、(27)の手形については、その書替後の新手形の請求がなされているし、(3)の手形の書替後の新手形は時効消滅したものである。また、いわゆる書替手形の抗弁を放棄したり、右抗弁を主張しない旨の意思表示をしたことはない。」を挿入し、同一〇、一一行目の「一三通を含む約束手形二九通」を「一三通(以下、本件請求手形(二)という。)を含む約束手形二九通(既に時効消滅した一通を除く。以下、本件手形(二)という。)」と改める。

4  同八枚目表四、五行目の「二八通を含む三二通の約束手形」を「二八通(以下、本件請求手形(一)ともいう。)を含む約束手形三二通(以下、本件手形(一)ともいう。)」と改める。

5  同九枚目表四行目の「認められないとしても」を「なく、(61)ないし(66)の手形六通(金額合計一一二〇万二〇〇〇円、実質借入総額四七七万七九〇〇円、以下、本件請求手形(三)ともいう。)が有効であるとしても、被控訴人は、本件各手形の授受を始めた昭和四五年九月頃控訴人竹中の振出にかかる手形(本件請求手形(一)ないし(三)を含む。)・小切手について、右手形・小切手を担保とする実質借入金額(本件請求手形(一)ないし(三)については二五二三万九四〇〇円)を超過する請求をしない旨約した。そして」と、同一三行目から同裏一〇行目までを

「(二) 立替金(建築材料費、前記はまゆう美容院の賃料、共益費等) 金三一九万二七三〇円

(三) 工事遅延に伴う損害金支払額 金二〇〇万円

控訴人竹中の右債権合計 金八七二万七七三〇円

5 本件請求手形(一)ないし(三)についての前記合意がないとしても、控訴人竹中はこれらを担保として被控訴人から二五二三万九四〇〇円を借入れたにすぎず、各手形の振出日から満期まで年六分の割合による利息九四万七八三三円との合計二六一八万七二三三円を超える金額についての請求は、利息制限法に違反するものであるから、許されない。

6  仮に、以上の主張がすべて失当であるとしても、控訴人竹中は、昭和四八年二月初め頃被控訴人及び伊丹との間で、本件手形(一)については金額八一二万円(被控訴人関係分五〇二万円、伊丹関係分三一〇万円)の手形を書替えて差入れるほか、被控訴人に一〇〇〇万円を支払う、被控訴人は本件手形(一)の請求はしない旨合意した。

7  よって、本件各手形については、控訴人ら」とそれぞれ改める。

(被控訴人の主張の補正)

1  原判決三枚目裏四行目の次に「(75)、(76)の手形二通については、本件提起時受取人が白地であったが遅くとも原審口頭弁論終結前に被控訴代理人弁護士久保義雄が受取人を奥田敏夫と補充した(被控訴人は、原審において、(75)、(76)の手形二通は完成した手形である旨主張したが、当審では右のとおり主張する。)。」を加える。

2  同一〇枚目表二行目の「答弁」の次に「及び再抗弁」を加え、同裏八、九行目を次のとおり改める。

「2 同2の事実は否認する。

被控訴人は、本件手形の作成には全く関与していなかったから、手形の書替があったことや旧手形の返還約束があったことはいずれも知らない。仮に、(1)ないし(31)の手形が書替前の旧手形であるとしても、(2)、(3)、(18)、(25)、(27)の手形五通については、その書替後の新手形の請求をしていないから、右手形金の請求を排斥されるいわれはない。

また、控訴人竹中振出の本件各手形は、主として被控訴人の知人に譲渡されたものであるが、控訴人竹中が昭和四七年一一月頃からその決済ができなくなり、被控訴人にその回収を懇願したので、被控訴人は手形の不渡を回避するため回収に努め、本件各手形を所持するに至ったものであって、その当時控訴人竹中は、本件各手形の一部に書替前の旧手形がある旨主張しなかったし、また、そのような主張ができる状況でもなかったから、被控訴人に対し(1)ないし(31)の手形についてのいわゆる書替手形の抗弁はこれを放棄したか、又は黙示的に右抗弁を主張しない旨の意思表示をしたものである。

3  同3の事実は否認する。

(60)の手形が控訴人ら主張の五通の書替手形金額合計一一六〇万円のうちの一通であるかどうかは控訴人竹中及び岡上のみが知るところであり、被控訴人は全く知らないことである。

4  同4の事実のうち、控訴人ら主張のとおりの相殺の意思表示のあったことは認め、その余は否認する。

5  同5の事実は否認する。

本件請求手形(一)ないし(三)も控訴人竹中の依頼により被控訴人又はその知人が割引いたものであり、金銭消費貸借があったものではない。

6  同6の事実は否認する。」

(証拠)《省略》

理由

一  本訴請求の原因1(本件手形金債務の発生)について

本訴請求の原因1の事実は、(61)ないし(66)の手形の各支払期日及び(75)、(76)の手形の各受取人の点を除き、当事者間に争いがない。

右争いのない事実、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  控訴人竹中は、自ら又は泉原サヨ子(以下、泉原という。)に代行させて、(1)ないし(79)の手形を、いずれも、振出日及び受取人は白地とし、その他の手形要件は原判決別紙約束手形目録(以下、目録という。)記載のとおり(但し、(61)ないし(66)の手形の各支払期日は後述のとおりである。)記入して振出し、伊丹に交付したところ、(1)ないし(60)、(67)ないし(74)、(77)ないし(79)の手形の各振出日及び受取人は本訴提起日である昭和五〇年一一月二九日までに目録記載のとおり補充され、(75)、(76)の手形の各受取人は昭和五五年九月八日の当審第五回準備手続期日までに目録記載のとおり補充された(被控訴人は、(75)、(76)の手形の各受取人の補充は原審口頭弁論終結前になされた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)。

2  また、控訴人竹中は、(61)ないし(66)の手形の各支払期日について、(61)の手形は昭和四七年一二月一七日、(62)の手形は同年同月一八日、(63)の手形は同年同月一五日、(64)の手形は同年同月一六日、(65)、(66)の手形はいずれも同年同月一五日と記載して、これらを振出したものであるところ、本訴提起時までに、振出日については目録記載のとおり補充され、支払期日については同目録記載のとおり変造された。

3  被控訴人は、(1)ないし(79)の手形を所持し、補充後の(75)、(76)の手形を当審第五回準備手続期日に証拠として提出した。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、(1)ないし(79)の手形について控訴人竹中の振出人としての義務が発生したものと認められる。

控訴人らは、(61)ないし(66)の手形は各支払期日が変造されたものであるから無効であるし、(75)、(76)の手形は各受取人の補充が原判決言渡後になされたものであるから無効である旨主張するが、(61)ないし(66)の手形の各支払期日が前記認定の如く変造されたものであるからといって右手形が当然に無効となるものではなく、控訴人竹中は、右手形について変造前の文言に従い振出人としての義務を負うものというべきであるし、(75)、(76)の受取人の補充は前叙の如く原審口頭弁論終結後の昭和五五年九月八日の当審第五回準備手続期日までになされたものではあるが、そうであるからといって右手形が直ちに無効となるものとはいえない(弁論の全趣旨に照らし、控訴人らの(75)、(76)の手形についての右主張が白地手形の補充権の時効消滅を主張するものとは解しえないし、仮にそのように解しえたとしても、右時効は、右手形の各満期の日から三年以内になされた本訴の提起によって中断されているものである。)から、右各手形について控訴人竹中の振出人としての義務の発生を否定することはできない。

二  控訴人らの抗弁及び控訴人竹中の反訴請求の原因等について

1  同1の主張について

《証拠省略》を総合すると、次の(一)ないし(五)の事実のほか、原判決一七枚目裏八行目の「被告竹中は」から一八枚目裏七行目まで記載の事実(但し、同一八枚目表二行目の「再割引」を「割引」と、同裏二、三行目の「伊丹を介して書替えをなし」を「書替を行い、被控訴人に割引又はその斡旋を依頼した手形・小切手については、伊丹又は伊丹及び被控訴人を経て、被控訴人又はその知人である割引人に対し書替手形・小切手を交付し、これと引換えに」とそれぞれ改める。)が認められる(原判決理由中の右説示部分をここに引用する。)。

(一)  被控訴人は、伊丹の紹介により、昭和四五年四月一一日控訴人竹中から所定の設計図、仕様書に従った軽量鉄骨造陸屋根三階建店舗付住宅一棟(延床面積一一一・七八平方メートル)の建築工事を代金四〇〇万円で請負い、工事の完成を同年七月一三日とし、右家屋の電気、ガス器具設置、浄化槽設置、水道給水連絡の各工事は右請負の対象外とする旨約した。

(二)  控訴人竹中は、同年四月二七日被控訴人に対し、右請負代金の支払のため、いずれも控訴人光陽興産振出の、支払期日を同年九月三〇日とする金額五〇万円の約束手形四通及び金額二〇万円の約束手形一〇通(うち六通の金額は各二〇万円、番号は、L〇四三七八、L〇四三八〇、L〇四三八一、L〇四三八二、L〇四三八五、L〇四三八六である。)を交付した。

(三)  被控訴人は、同年四月一四日頃から右設計図、仕様書に従って家屋建築工事を進めたところ、所轄の建築主事から建築基準法上の建ぺい率及び建物の高さ制限違反等を理由とする建築中止命令を受けたため、約一〇〇万円の費用をかけて鉄骨工事等の手直し工事を行い、約定の工期より若干遅れ、同年七月末頃これを完成して引渡した。

(四)  控訴人光陽興産は、前記支払手形一四通のうち金額二〇万円の手形六通(括弧内に番号を記載したもの。)を支払期日に決済し、その余の八通(金額合計二八〇万円)の手形については書替により支払を延期したが、のちに右二八〇万円の書替手形を決済した。

(五)  被控訴人は、昭和四五年頃控訴人竹中に対し前記手直し工事費の請求をしたところ、その当時同控訴人からその支払を受けられなかったが、右手直し工事を要したことが同控訴人のみの責任であるとは必ずしもはっきりしなかったこと等から、その後は請求もしないまま放置して現在に至っている。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、(1)ないし(79)の手形は、控訴人竹中が被控訴人に対する前記請負代金四〇〇万円の支払のために振出された手形の書替手形ではないことが認められ、また、控訴人竹中主張のように同控訴人が被控訴人らの重大な過失による請負工事の遅延のため約五〇〇万円の立替払を余儀なくされたことを認めるに足りる証拠もないから、同控訴人はこれらのことを理由に(1)ないし(79)の手形金の請求を拒絶しうる限りではなく、同控訴人の右1の主張は採用しえない。

2  同2の主張(いわゆる書替手形の抗弁)について

前記認定の事実、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  (1)ないし(31)の手形は、控訴人竹中において支払期日に決済することができないため、後記(二)記載の経緯により、それ以外の手形等に書替えられたものであり、振出人である控訴人竹中と受取人である伊丹((14)、(15)、(25)ないし(31)の手形面上受取人は被控訴人と記載されているが、右手形も、その余の手形と同様、伊丹を経て被控訴人又はその知人の割引人へ交付されたものであり、受取人が白地のまま振出・譲渡されたのちに受取人が被控訴人と補充されたにすぎない。)との間では、伊丹において(1)ないし(31)の手形を回収し、控訴人竹中へ返還する旨の合意があった。

(二)  控訴人竹中は、

(1) 昭和四七年九月二六日(1)の手形を、支払期日を同年一〇月三〇日、金額を二〇〇万円((1)の手形と同額)とする手形(番号B八一〇〇八、以下、記号と数字又は数字のみを記載する。)に書替え、次に同年一〇月二六日(但し、手形面上の振出日の記載とは一致しない。以下、(21)までにおいて(1)ないし(31)の手形に関し右と同様である。)右手形を(27)の手形に書替え、更に同年一一月二五日(27)の手形を、支払期日を同年一二月三〇日、金額を二〇〇万円とする手形(D〇七一一〇)に書替えた。

右手形(D〇七一一〇)については、控訴人竹中振出の他の手形七通(D〇七〇二一、D〇七〇三五、D〇七〇八二、D〇七一〇〇、D〇七一〇五、後記D〇七一〇六、D〇七一一二)と合わせ、浅野昌子が同控訴人に対し、大阪地方裁判所昭和五〇年(手ワ)第一九四一号(異議後の昭和五一年(ワ)第二七九九号)事件において手形金請求し、勝訴判決を得た。

(2) 昭和四七年一〇月二一日(2)の手形を、金額二〇万円の手形(B八五七八五)及び金額一二万八〇〇〇円の小切手(〇三四一四)と合算して、支払期日を同年一一月二四日、金額を五二万八〇〇〇円とする手形(B八二三四四)に書替え、次に同年一一月一六日右手形を、金額一三万八二四〇円の小切手と合算して、支払期日を同年一二月二四日、金額を六六万六二四〇円の手形(D〇七〇九〇)に書替えた。

右手形(D〇七〇九〇)については、控訴人竹中振出の他の手形八通(C〇七七五七、D〇七〇八三、D〇七〇九八、D〇七〇九九、D〇七一〇一、D〇七一〇二、D〇七一〇七、D〇七七五八)と合わせ、桐村茂夫(訴訟承継人)が控訴人竹中に対し、大阪地方裁判所昭和五〇年(手ワ)第一九四五号(異議後の昭和五一年(ワ)第一三一八号)事件において手形金請求し、勝訴判決を得た。

(3) 昭和四七年一〇月二一日(3)の手形を、支払期日を同年一一月二四日、金額一二〇万円とする手形(B八二三四三)に書替え、次に同年一一月一六日右手形を、支払期日を同年一二月二四日、金額を一二〇万円とする手形(D〇七〇八九)に書替えた。

(4) 同年一〇月二一日(4)の手形を、金額四〇万円の手形(B八五七八八)と合算して、支払期日を同年一一月二五日、金額を一〇〇万円とする手形(B八二三四六)に書替え、次に同年一一月二二日右手形を(53)の手形に書替えた。

(5) 同年一〇月二六日(5)の手形を(28)の手形に書替え、次に同年一一月二五日(28)の手形を(59)の手形に書替えた。

(6) 同年一〇月二四日(6)の手形を(29)の手形に書替え、次に同年一一月二五日(29)の手形を(54)の手形に書替えた。

(7) 同年一〇月二六日(7)の手形を(25)の手形に書替え、次に同年一一月二五日(25)の手形を金額二〇〇万円の手形(前記D〇七一〇六)に書替えた。

(8) 同年一〇月二四日(8)の手形を(31)の手形に書替え、次に同年一一月二五日(31)の手形を(55)の手形に書替えた。

(9) 同年一一月六日(9)の手形を、金額一二万円の小切手(一三二〇四)と合算して(33)の手形に書替えた。

(10) 同年一一月二日(10)の手形を(32)の手形に書替えた。

(11) 同年一一月六日(11)の手形を(36)の手形に、(12)の手形を(38)の手形にそれぞれ書替えた。

(12) 同年一一月九日(13)の手形を(39)の手形に書替えた。

(13) 同年一一月六日(14)の手形を、金額五〇万円の手形(B八一〇三四)と合算して、(34)の手形に書替えた。

(14) 同年一一月九日(15)の手形を、金額二〇万四〇〇〇円の小切手(一三二一一)と合算して、(42)の手形に、(16)の手形を(43)の手形に、(17)の手形を(41)の手形に、(18)の手形を、金額二四万八〇〇〇円の小切手(一三二一二)と合算して、支払期日を同年一二月一三日、金額を一一九万八〇〇〇円とする手形(D〇七〇二六)にそれぞれ書替えた。

(15) 同年一一月九日(19)の手形を、金額四〇万円の手形(B八三八七七)及び金額四二万五〇〇〇円の小切手(一三二一六)と合算して、(44)の手形に書替えた。

(16) 同年一一月九日(20)の手形を(45)の手形に書替えた。

(17) 同年一一月一三日(21)の手形を(65)の手形に書替えた。

(18) 同年一一月一六日(22)の手形を、金額三〇万円の手形(B八三八九八)及び金額八万八〇〇〇円の小切手(一三二二四)と合算して、(47)の手形に書替えた。

(19) 同年一一月一三日(23)の手形を、金額七〇万八〇〇〇円の小切手(一三二一八)と合算して、(63)の手形に、(24)の手形を(66)の手形にそれぞれ書替えた。

(20) 同年一一月二二日(26)の手形を(52)の手形に書替えた。

(21) 同年一一月二五日(30)の手形を、金額三四万九〇六〇円の小切手(二一八五二)等を合算して、(58)の手形に書替えた。

(三)  被控訴人は、伊丹の依頼に応じて、控訴人竹中振出(但し、当初は控訴人光陽興産振出)の手形・小切手を自ら割引くか、知人に依頼して割引を受け、その割引金を伊丹に交付し、また自己又は知人らが新手形の割引をせず、控訴人竹中振出の手形・小切手が支払期日に決済される見込のない場合には、自らが控訴人竹中振出の書替手形・小切手を割引人に交付し、これと引換えに旧手形の回収を図り、これを伊丹に交付する方法をとっていたが、(1)ないし(31)の手形は割引人(被控訴人か又はその知人ら)からの回収もれの手残り手形であって、被控訴人及びその前の所持人らは、(1)ないし(31)の手形についての控訴人竹中と伊丹との間の前記合意を知悉していた。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の事実によると、被控訴人は、(1)ないし(31)の手形については、控訴人竹中を害することを知ってこれを取得した悪意の所持人であるというべきであるから、控訴人らのいわゆる書替手形の抗弁は理由がある。

ところで、被控訴人は、(2)、(3)、(18)、(25)、(27)の手形については書替後の新手形の請求をしていないから、右手形金の請求を排斥されるいわれはない旨主張するが、前記認定の事実によれば、控訴人竹中は、右手形の書替に当り、伊丹との間で伊丹が右手形を回収して同控訴人に返還する旨合意し、被控訴人は右の合意のあったことを知って右手形を取得したものであって、他に特段の事情のあることの主張・立証もないから、被控訴人が右手形の書替後の新手形の請求をしていない(但し、(2)の手形の書替手形(D〇七〇九〇)については桐村茂夫(訴訟承継人)が、(25)の手形の書替手形(D〇七一〇六)及び(27)の手形の書替手形(D〇七一一〇)については浅野昌子がそれぞれ裁判上の請求をした。)ことをもって、(2)、(3)、(18)、(25)、(27)の手形の請求をなしうるということはできず、被控訴人の右主張は採用しえない。

さらに、被控訴人は、本件各手形は主として被控訴人の知人に譲渡されたものであるが、控訴人竹中が昭和四七年一一月頃からその決済ができなくなり、被控訴人にその回収を懇願したので、被控訴人はその回収に努め、本件各手形を所持するに至ったものであって、その当時控訴人竹中は、本件各手形の一部に書替前の手形がある旨主張しなかったし、また、そのような主張ができる状況でもなかったから、被控訴人に対し(1)ないし(31)の手形についてのいわゆる書替手形の抗弁はこれを放棄したか、又は黙示的に右抗弁を主張しない旨の意思表示した旨主張する。

しかしながら、控訴人竹中が(1)ないし(31)の手形についてのいわゆる書替手形の抗弁を明示的に放棄したことを認めるに足りる証拠はないし、前記二1認定の事実、《証拠省略》を総合すると、控訴人竹中は、昭和四六年春頃から武庫ビラマンションの改装費等の資金調達と称して伊丹に対し融資の斡旋を依頼し、伊丹は、金融業者から継続的に控訴人光陽興産振出の小切手の割引を受け、割引金を控訴人竹中に交付していたところ、同年一〇月末頃には右小切手金額の総計が約四〇〇万円ないしは約五〇〇万円にも達したうえ、割引利息が月二割の高利であったため、控訴人竹中はその頃伊丹に対し低金利で融資を受けたい旨要請したこと、そこで伊丹が被控訴人に手形・小切手の割引又はその斡旋を求めたところ、被控訴人はこれを承諾し、同年末頃から控訴人光陽興産振出(同控訴人が銀行取引停止処分を受けたのちは、控訴人竹中振出)の手形を自ら割引くか又は知人から右手形の割引を受ける方法で、割引金を伊丹を経て控訴人竹中に交付して融資を続けたが、その結果昭和四七年五月頃には控訴人竹中振出の未決済手形・小切手の金額の総計が約七〇〇〇万円ないし約八〇〇〇万円にも達したこと、被控訴人は、その頃から自己が割引を依頼した知人より控訴人竹中振出の右手形・小切手の決済を強く迫られ、控訴人竹中及び伊丹に窮状を訴えてみても、同控訴人らにおいて、右手形・小切手を決済する資力はなく、被控訴人にも責任をとって貰うほかない旨述べるのみであったので、自己の信用を維持するため、割引依頼した責任上やむなく右手形・小切手の所持人からこれを買戻し、(1)ないし(79)の手形等を回収したことが認められ、右認定の事実にかんがみると、被控訴人が(1)ないし(79)の手形等の回収に当ったのは、主として自己が知人に対し割引依頼して融資を受けた責任をとり、自己の信用を維持するためであって、その当時、控訴人竹中において被控訴人に対し(1)ないし(31)の手形が書替前の旧手形である旨主張しなかったとしても、黙示的に右手形についてのいわゆる書替手形の抗弁を放棄したり、又はこれを主張しない旨の意思表示をしたものとはいうことができないから、被控訴人の右主張もまた採用しえない。

3  同3の主張(代物弁済の抗弁等)について

《証拠省略》のうちには右主張(但し、第四段の(60)の手形が本件請求手形(三)のうちの一通である旨の部分は除く。)に副う部分があるが、右部分は後記各証拠に照してたやすく信用しえず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

かえって、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  岡上芳信(以下、岡上という。)は、被控訴人が以前勤めていた伸和鉄建株式会社の役員(右役員には被控訴人が手形割引の斡旋を依頼した。)の紹介で、控訴人竹中振出の手形の割引をし、昭和四七年一二月頃には金額総計一一六〇万円以上の手形を所持しており、その頃伊丹とともに控訴人竹中に対し手形金の請求をしたところ、同控訴人は、とりあえず金額一一六〇万円の手形の書替を行い、これが決済できない場合には、妻・竹中敏子(以下、敏子という。)が代表取締役をしている株式会社はまゆうの有する美容院はまゆうの営業用什器備品一式、在庫品、営業権及び武庫ビラマンションの一部の賃貸借契約に伴う差入れ保証金一六〇万円の返還請求権(以下、はまゆう美容院の営業権等という。)を代物弁済として譲渡する旨申し出、同年一二月一八日泉原に指示して岡上に対し金額九六〇万円の手形(支払期日昭和四八年一月二三日)及び金額五〇万円の(60)の手形を含む手形四通(支払期日同年二月二七日((60)の手形)、三月一二日、三月二四日、三月三一日)を振出し、伊丹を経て交付した。

(二)  控訴人竹中は、金額九六〇万円の右書替手形を支払期日に決済する見込がなかったので、昭和四八年一月二二日前記申し出に沿い、株式会社はまゆうをして、被控訴人、伊丹の立会いのうえ、岡上に対し右書替手形五通(金額一一六〇万円)の代物弁済としてはまゆう美容院の営業権等を譲渡させ、翌二三日その旨の契約書(但し、売買契約書となっている。)を作成させた。

(三)  岡上は、同年一月二二日控訴人竹中に対し金九六〇万円の前記書替手形を返還するとともに、当時所持していなかった金額五〇万円の書替手形四通を責任をもって処理し、控訴人竹中に対して請求をしない旨約し、その場に立合っていた被控訴人もそのことを知っていた。

以上の事実が認められ、右認定の事実にかんがみると、控訴人竹中が振出した金額合計一一六〇万円の手形は、岡上の所持していた手形が書替えられたものであって、本件手形(二)が書替えられたものではなく、右一一六〇万円の手形が決済されたときは本件手形(一)、(二)の請求をしないものとする旨の合意のなかったことが窺われるから、控訴人らの前記主張は、第四段の部分を除き失当であるが、(60)の手形ははまゆう美容院の営業権等の譲渡により決済されたものであり、被控訴人は右事実を知っていたものであるから、悪意の所持人として(60)の手形金の請求をすることができず、控訴人竹中に右手形を返還すべき義務があり、この限度で控訴人らの右主張は理由がある。

4  同4の主張(相殺の抗弁等)について

控訴人らは、被控訴人は、昭和四五年九月頃控訴人竹中に対し、同控訴人振出の手形(本件請求手形(一)ないし(三)を含む。)・小切手について、右手形等を担保とする実質借入金(本件請求手形(一)ないし(三)については二五二三万九四〇〇円)を超過する額の請求をしないことを約した旨主張し、《証拠省略》のうちにはほぼ右主張に副う部分があるが、右部分は弁論の全趣旨に照してたやすく信用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

また、控訴人竹中がその主張のような相殺の意思表示をしたことは当事者間に争いがないところ、控訴人らが主張する自働債権の発生原因事実の存否について判断するに、同主張(一)の現金支払における支払超過があったとの点については、《証拠省略》中にこれに副う部分が存するが、右部分は、弁論の全趣旨によれば、具体的根拠がないまま同控訴人の主張が記載されたものにすぎないことが認められるから、たやすく信用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はないし、同(二)の建築材料費に関する立替払をしたとの点については、これを認めるに足りる証拠はなく、はまゆう美容院の賃料、共益費等に関する立替払をしたとの点については、《証拠省略》によれば、控訴人光陽興産は被控訴人に対しはまゆう美容院の使用部分についての賃料、共益費、水道代の支払請求権を有しないことが別件判決により確定していて、控訴人竹中がこれを被控訴人のために立替払する余地はないし、また、同(三)の工事遅延に伴う損害金を支払ったとの点については、これに副う《証拠省略》は、控訴人竹中の作成名義のものであって、弁論の全趣旨に照してたやすく信用し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

5  同5の主張(利息制限法違反の抗弁)について

前記二1、2認定の事実、《証拠省略》を総合すると、本件請求手形(一)ないし(三)は、いずれも、金銭消費貸借に関する何らの約定もないまま、控訴人竹中が伊丹に割引を依頼し伊丹がこれに基き被控訴人又はその知人から割引を受けた手形、及び同控訴人が割引利息の支払の方法として振出した手形・小切手が相当回数にわたり書替えられた末の最終手形であり、その直前の書替は、従前の一通の手形の書替か、二通以上の手形を合わせた書替か、又は小切手及び手形を合わせた書替かのいずれかであることが認められ、右認定の事実によると、控訴人竹中が受けていた手形の割引は手形の売買であり、手形(小切手を含む。)の書替は旧手形の支払に代えて新手形上の債権が譲渡されたものであって、当初の手形の割引から最終の手形の書替までに、控訴人竹中と所持人及びその後手形を買戻した被控訴人との間に金銭消費貸借関係の生じる余地が全くなかったものであるから、本件請求手形(一)ないし(三)につき利息制限法の適用はなく、控訴人竹中の右主張は、その余の点を判断するまでもなく、失当であって採用しえない。

6  同6の主張(和解契約の抗弁)について

右主張は、これを認めるに足りる証拠がないから採用しえない。

三  本訴請求の原因2(法人格の否認)について

控訴人光陽興産の代表取締役が控訴人竹中、取締役が同控訴人の妻・敏子と同控訴人の娘婿・松茂禎敏(以下、松茂という。)、監査役が同控訴人の娘・竹中敬子(以下、敬子という。)であること、控訴人光陽興産が本件土地と同地上の武庫ビラマンションを所有していることは当事者間に争いがない。

右争いのない事実、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  控訴人竹中は、昭和二四年頃大阪市の事務吏員として同市南区役所に勤務していたところ、その頃大阪市に採用された伊丹と知り合ったが、昭和三二年一月に肺疾患等のため大阪市を退職し、しばらくの間株式会社楽亭(以下、楽亭という。)の経営に関与したのち、昭和三五年から税理士となり、昭和三七年頃その当時伊丹が勤めていた会社の税理事務を担当する等して伊丹と接触を続けていた。

2  控訴人光陽興産は、元来、飲食店営業に関する事業を行うことを目的として昭和二八年一〇月二九日に設立され、当時の商号は楽亭であって、本店は大阪市南区難波新地一番町一番地(以下、難波新地という。)にあり、代表取締役は敏子、取締役は竹中寅造ら、監査役は控訴人竹中らであって、本店において飲食業を営んでいた。

3  楽亭は、昭和三五年に控訴人竹中が難波新地で税理士を開業すると同時に飲食業を止め、資産を整理して休業状態に入ったが、昭和三六年七月三一日不動産の賃貸に関する事業をその目的に加え、当時控訴人竹中の所有で、楽亭の本店のあった建物(同控訴人はその一部を税理士事務所としていた。)の一部を数名の者に賃貸し、これを管理する業務を始めた。

4  しかし、楽亭の昭和三六年八月以降の右不動産賃貸・管理業務も控訴人竹中、妻・敏子ら家族が行っていて、実際には楽亭は資産もなく休業状態にあったので、控訴人竹中、敏子は、昭和三八年頃、娘・敬子の夫の松茂が金属製品の製造・販売業を開始するに当り、新会社の設立をしないで、実際上いわば登記簿上の存在にすぎなかった楽亭を利用することを承諾し、同年八月一日商号を株式会社大通金属化成製作所(以下、大通金属という。)と、目的を各種金属製品並びに化成品及び家庭日用品の製造と販売、不動産賃貸に関する事業等とそれぞれ変更し、本店を大阪市南区大和町二七番地に移転し、同年七月三一日楽亭の前記取締役が退任し、翌八月一日代表取締役に控訴人竹中が、取締役に敏子、松茂が、監査役に敬子がそれぞれ就任したものとし、その頃から松茂が大通金属の名義で各種金属製品等の製造・販売業を営んでいたが、昭和四一年頃倒産し、資産もなく、再び休業状態に陥っていた。

5  控訴人竹中は、同年初め頃、自己所有にかかる本件土地上にマンションを建設する計画を立て、同年四月二日その建設資金の一部である約一〇〇〇万円を本件土地を担保として協栄信用組合から借受けたが、マンションの所有名義については、税務対策上の考慮等からこれを自己名義とはせず、会社名義とすることを企図し、大通金属が前叙の如く休業状態にあるうえ、代表取締役等の役員がすべて親族であることから、これを利用することに決め、昭和四一年四月一日本店を難波新地に戻したうえ、同年四月一三日従前の取締役は昭和四〇年八月一日付、監査役は昭和三九年八月一日付でそれぞれ退任し、昭和四一年三月三一日付で代表取締役に控訴人竹中が、取締役に敏子、松茂が、監査役に敬子がそれぞれ就任したものとし(なお、控訴人竹中は、その際松茂から取締役就任についての承諾を得ていない。)、さらに資本金を同年五月三日八〇万円に、同月五日二〇〇万円にそれぞれ増額したが、その増額資本の払込はすべて控訴人竹中が単独で行ったものの、税務対策上の考慮等から、同控訴人自ら株式会社の名義人とならないで大部分の株式の名義人を松茂、敬子とし、同年同月八日商号を現商号に変更した。

6  控訴人光陽興産は、昭和四一年五月一三日株式会社大末組(現商号・大末建設株式会社、以下、大末建設という。)に対し、竹中マンション新築工事(工事名)を代金二五九五万円で請負わせ、同年一二月頃には武庫ビラマンションの完成・引渡を受け、同年一二月二〇日所有権保存登記を経由したうえ、大末建設に対する請負残代金の支払のため、本件土地及び武庫ビラマンションを担保として協栄信用組合から更に約一〇〇〇万円を借受け、残額は約束手形で支払うものとした。

なお、右同日、控訴人光陽興産は、控訴人竹中の協栄信用組合に対する前記5記載の債務をも担保するため武庫ビラマンションに根抵当権(順位一番)を設定した。

7  控訴人竹中は、昭和三五年から税理士業務を行い、昭和三八年から事務員として泉原を雇用し経理事務を行わせていたところ、控訴人光陽興産は目的(大通金属当時と同じ)の事業のための従業員を雇用せず、その所有名義の武庫ビラマンションの賃料、共益費、水道料等の支払催告、受領、管理等の事務の大部分を控訴人竹中とその従業員である泉原が行っている。

なお、控訴人光陽興産は、昭和四八年五月九日本店を武庫ビラマンション内へ移転したが、本店に看板等も掲げず外観上はその存在を知りえない状況にある。また、本訴提起後松茂が取締役を、敬子が監査役をそれぞれ退任したうえ、敬子が取締役に、竹中劭が監査役にそれぞれ就任したものとされたが、松茂は取締役を退任したことも知らない。

8  控訴人竹中は、昭和四五年被控訴人に対し代金四〇〇万円で家屋建築工事を請負わせたが、代金支払のため控訴人光陽興産振出の手形を交付し(のちに決済された。)、同年五月二〇日控訴人光陽興産と共同で、前記店舗付住宅(被控訴人が控訴人竹中より建築を請負った建物)及び敷地を代金一三〇〇万円で吉本博昭に売渡す旨の契約を締結し、また昭和四六年末頃から武庫ビラマンションの改装費等の資金調達のためと称して被控訴人又はその知人から手形・小切手の割引を受けたが、当初の手形・小切手の振出人は控訴人光陽興産であり、同控訴人が銀行取引停止処分を受けてから、自己振出の手形・小切手に書替え、これらの金額が膨大となり、その所持人となった被控訴人から決済を迫られると、昭和四七年四月頃から武庫ビラマンションを譲渡して代物弁済をしてもよい旨述べていた。

また、控訴人竹中は、昭和四七年五月頃伊丹を介し株式会社阪神相互銀行昭和町支店に対して武庫ビラマンションを担保とする一億円の融資の申込をし、同銀行の担当者・荻内達生に対して、武庫ビラマンションの家賃と自己の税理士収入を返済財源に充てる旨申し出ていた。

このような事情から、被控訴人及び伊丹は、控訴人竹中と同光陽興産とは同一体と考え、前記代物弁済契約の締結の交渉をしたこともあったが、控訴人竹中が交渉の都度条件を変更したため合意するに至らなかったところ、同控訴人は昭和四八年四月二七日本件土地(但し、七〇番の土地は持分八分の六)を同月一一日売買を原因として控訴人光陽興産に対し所有権移転登記を経由した。

9  控訴人竹中は、同光陽興産が本件土地上に武庫ビラマンションを建築所有するに際して賃借権の設定をしていないし、控訴人光陽興産に対し本件土地の所有権移転登記をした際に被控訴人に本件請求手形(一)ないし(三)の手形金の弁済をしていない。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定の事実によれば、控訴人竹中のみが意のままに同光陽興産を支配し、控訴人竹中(個人)と同光陽興産(会社)との財産の混同が行われるなど、控訴人光陽興産は株式会社であるといっても全くの形骸にすぎず、実体は控訴人竹中の個人企業であり、しかも、控訴人光陽興産の法人格が控訴人竹中の被控訴人に対する本件請求手形(一)ないし(三)の手形金債務を免れるために濫用されているものと認めるのが相当であるから、被控訴人は、いわゆる法人格否認の法理により、控訴人光陽興産を同竹中と法律上同一体のものとみて右手形金の請求をすることができるものというべきである。

四  結論

以上の次第で、控訴人らは各自被控訴人に対し本件請求手形(一)ないし(三)の手形金合計七〇六九万八二〇〇円及びうち(32)ないし(59)、(61)ないし(74)、(77)ないし(79)の手形金合計六八八四万八二〇〇円に対する訴状の送達の翌日であることが記録上明らかである昭和五〇年一二月三〇日から、うち(75)、(76)の手形金合計一八五万円に対する右手形が完成され証拠として提出された日(当審第五回準備手続期日)の翌日である昭和五五年九月九日から各完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、被控訴人の本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却すべきところ、(75)、(76)の手形金及びこれに対する遅延損害金の請求を棄却した原判決はその限りで相当ではないが、その余の部分は相当であり、附帯控訴は一部理由があるから民訴法三八六条により原判決主文第一項及び第三項中控訴人らに対する本訴請求に関する部分を主文第一項のとおり変更し、また、被控訴人は控訴人竹中に対し(1)ないし(31)、(60)の手形を返還すべき義務があるから、控訴人竹中の反訴請求は右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本訴及び反訴に関する本件各控訴はいずれも理由がないから民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条、九三条、九二条、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 林義一 大出晃之)

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